森中 定治 (日本生物地理学会会長)
中島 早苗 (特活フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表理事)
中村 桂子 (JT 生命誌研究館館長)
日本生物地理学会は,今から84年前にあたる昭和3年(1928年),山科芳麿博士, 黒田長禮博士ら当時の著名な鳥類学者の協力の下,鳥類学者の蜂須賀正氏博士と 東京大学理学部教授で生物地理学の第一人者であった渡瀬庄三郎教授によって設立されました.
蜂須賀正氏は,祖父が東京府知事,父が貴族副議長であり,政治家への道を望まれましたが, 自然界にいのちをつなぐ”生物”に強い興味を示し,鳥類学者として生涯を送りました. 平成15年(2003年)に開催された生誕百年記念シンポジウムにおいて”型破りの人”と評されましたが, 自己の信念と哲学に基づいて時代を駆け抜けた人でした. 渡瀬庄三郎は,区系生物地理学における旧北区と東洋区の境界を示す”渡瀬線”によって著名であり, 昨今外来生物として問題になっているジャワマングースを移入しましたが, 当時困っていた 野鼠やハブの被害を防ぐために生物学の知識を社会に役立てようと積極的に行動した強いパワーの持ち主でした. 日本生物地理学会創設者のこのような人となりを考え,学問を学問としての枠に留まることなく, また目先の損得ではなく,人類の未来に役立てることができればと思います. 生物学に関するフォーマルなシンポジウムの他に, このミニシンポジウムをもつのはこのような理由です.
一昨年は”昆虫を食べる”という視点から,立教大学文学部の野中健一先生に, 世界と日本の昆虫食を通して人間の生活と昆虫の関わり, さらに未来に昆虫が人間に対してどのような役割をもつのかお話頂きました. また,お話の終了後珍しい昆虫食試食の集いを開いていただきました. 続いてエコネットくまがや副代表の山田胤雄さんに,「子ども達に豊かな自然を残してあげよう」と題して, 幅広い地球環境問題から子どもと大人,つまり現世代と未来の世代をどうとらるのか, 最近よく使われる「グローカル」,think globally,act localy の意味についてとても興味深い示唆をいただきました.
本年3月3日付毎日新聞社説に「私たちは何を学んだか」として,3.11の原発震災で失ったもの 1. 2万人の生命(いのち),2. 数十万人の財産,生活,雇用, 学んだもの1. 政治の重要性,2. 原発/エネルギー政策見直しの必然性と記述されています. 本日は,現在の原発つまりウラン・プルトニウムを用いる軽水炉の生物への作用と, 人間への影響について生物学者の立場から考えてみます.
本年は「生命」をテーマとして,世界の子どもがどれくらいの力をもつのか,NPO法人(特定非営利活動法人) フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表理事の中島早苗さんに「子ども参画による国際協力活動 〜子どもは世界を変えられるか〜」と題してお話を頂きます.また,JT 生命誌研究館館長の中村桂子先生に, 「自然」と「生命」と「人間」の視点から「『人間は生きものである』を考える」と題してお話を頂きます. 私たちは,どういう社会を今後の世代に贈ろうとするのか,お二人の演者にリラックスして存分にお話しいただきたいし, 我々もまたリラックスしてお話をお聴きしたいと思います.